ロボット手術について

呼吸器外科 上田和弘

呼吸器外科:上田和弘

いつからロボット手術が始まった?

呼吸器外科領域では日本国内において2018年4月より原発性肺癌と縦隔腫瘍に対してロボット支援手術が保険収載されました。鹿児島大学病院では2019年1月よりロボット支援下の肺癌手術を開始しました。
所定のトレーニングを経て資格を取得した術者が20症例のロボット支援下肺癌手術の臨床経験を積んだ上で、鹿児島大学での手術を導入しました。

現在、鹿児島大学病院が保有するロボット(商品名ダヴィンチ)は最新モデル(Xi)です。これを4つの診療科(泌尿器科、産婦人科、消化器外科、呼吸器外科)が共用しているため、ロボット支援下手術を全ての適応患者さんにご提供することはできておりませんが、毎週のようにロボット支援下肺癌手術を行なっています。

ロボットが手術をする?

ロボット手術と聞いて不安に思われる方がたくさんいらっしゃると思います。
例えば人工知能を搭載した車が自動運転をするように、ロボットが人間の体にメスを入れると思われる方もいらっしゃるかもしれません。
決してそんなことはなく、例えば手ブレ防止機能や色彩の自動調整機能のついたビデオカメラを用いて安定した動画が撮影できるようになったように、ロボット手術支援機器は術者の意図した通りの手の動きを患者さんの体の中で忠実に再現してくれます。

ロボットに装着される手術器具には人間の肘や手首に相当する関節を保有しています。
さらに、術者がロボット手術の運転席で見ているのは3D(立体)映像です。
従ってロボット支援手術は機械の力を借りることで、まるで患者さんの体の中を直接見ながら自分の手を差し入れて手術操作を行なっている様子を想像していただければ良いと思います。

もしも両肘、両手首をギブスで固定された状態で、片目(2Dの映像)で生活をしなければならなくなったとしたら、かなりの不自由さを感じることになるでしょう。
ロボット手術に習熟した外科医にとってロボットは術者が意図した精巧な手術操作を、小さい傷口を通して実行する手助けをしてくれる機械ということができます。

呼吸器外科 thoracic surgery

ロボット支援下肺悪性腫瘍手術の風景

呼吸器外科 thoracic surgery

3本のロボットアーム (術者の右手、左手、カメラの役割を果たす)が 2箇所の傷口から挿入されている。
残りの1箇所の傷から助手が手術をサポートする。

どんなメリットがある?

現在、国内でロボット手術を行なっている術者のほとんどは胸腔鏡(内視鏡)手術にも習熟しています。
従って、我々がロボット手術を導入することで、従来の手術よりも手術に起因した合併症を明らかに減らすまでには至っておらず、いわゆるロボット手術の優れた功績を示すことはできていません。
また、癌の手術では癌細胞を胸の中に取り残さないような、根治性の高い手術が要求されますが、胸腔鏡手術とロボット支援手術との間で根治性においても現時点では差がないと推測されています。

従って、ロボット支援により術者は精巧な手術操作が可能となり、内視鏡手術の不自由さを解消することができましたが、現時点では患者さんに実感していただけるようなメリットを証明することはできていません。

しかしながら、ロボット支援肺癌手術には大きな期待が持たれています。肺癌の進行度や肺癌の発生した部位によっては胸腔鏡手術が適応とならない症例があり、このような症例では胸を大きく切り開く開胸手術が選択されます。例えば、癌病巣を気管支や肺血管と共に切除した場合には、残った気管支や肺血管同士を針と糸で縫合する必要性が生じます。

このような手技には高い技術を要し、縫合が不完全な場合には手術後に重症な合併症が発生します。ロボット支援手術ではこのような症例に対して大きく胸を切り開くことなく精巧に気管支、血管を縫い合わせることができます。

胸を大きく切り開くことは手術後の痛みにつながるだけではなく、呼吸に関わる筋肉が傷害されることで呼吸の力が落ちて、結果的に手術後の回復が遅れたり、肺炎などの合併症を引き起こす原因になったりします。

一般的にロボット肺癌手術では胸の前後の広い範囲に合計5、6箇所の傷ができますが、鹿児島大学の方法では通常では合計3箇所の傷で行います。さらに、3箇所の傷口はほぼ腕で隠れる部分に作るため、あまり目立つことはありません。従来から鹿児島大学で行なっている胸腔鏡による肺癌の手術は4箇所の傷口から行なっており、傷口の観点からは胸腔鏡手術よりもロボット手術に軍配があがるかもしれません。

呼吸器外科 thoracic surgery

ロボット手術の傷痕

呼吸器外科 thoracic surgery

従来の胸腔鏡手術の傷痕

どんな疾患がロボット手術の適応になる? 

ロボット手術が日本国内で保険適応となるのは肺悪性腫瘍では肺葉切除以上の切除が必要な症例に限定されています。
肺葉切除よりも小さく肺を切除する肺区域切除は現時点では適応となりませんが、近い将来には適応となる可能性があります。また、縦隔腫瘍においては良性、悪性を問わず適応になります。
このような適応のある患者さんにおいては手術および入院に関する費用の自己負担は従来の胸腔鏡手術とロボット手術との間で同額です。鹿児島大学では早期の肺癌をお持ちの患者さんに限定してロボット支援肺悪性腫瘍手術を行ってきましたが、症例数を重ねるにつれて、より大きい肺癌をお持ちの患者さんにも実施するようになってきています。

これまでのロボット手術の実績は?

2019年1月にロボット支援肺悪性腫瘍手術を導入し、1年間で20症例に対して実施しましたが、ロボットの機器トラブルはなく、手術中の不測のトラブル(輸血を必要とするような出血など)を経験しておりません。手術後に後遺症を残すような合併症もありません。

ロボット手術の今後の展望は?

ロボット機器は、まだまだ発展の余地があり、開発段階の新技術は沢山あります。
しかしロボットは術者の操作を補助する立場であることにはかわりありません。その中で、我々は将来的には現在よりも小さい傷口で高度の操作ができるようになり、結果として安全性、根治性(癌を残さず切除すること)において患者さんに恩恵を与えられるような技術を確立することを目指しています。

呼吸器外科 thoracic surgery

肺癌を摘出した後に気管支の縫合を行なっているところ。

外来担当、受診の曜日は?

毎週火曜日、木曜日の呼吸器外科外来では実際にロボット手術を執刀する医師による外来診療が行われています(ただし、学会出張などにより休診することがあります)。 呼吸器外科の紹介先のリンクhttps://com4.kufm.kagoshima-u.ac.jp/medicine/010/#p02

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